コラム

ビジネスパーソンのためのグローバルコミュニケーション講座 Vol.3

グローバル

前回までは、ISO(国際標準化機構)が『プレイン・ランゲージ』の規格化を2019年9月に採択したことや、プレイン・イングリッシュの10のポイントとこれを用いることの利点、などについてご紹介しました。

最終回の今回は、外国語を母国語としない私たちがプレインな外国語の文章を作成するためのコツとして、日本語の段階から『プレイン・ランゲージ』の心構えやスキルを取り入れることと、そのガイドとなる『プレイン・ジャパニーズ』についてエイアンドピープル代表取締役の浅井満知子氏より紹介いただきます。

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プレイン・ジャパニーズの重要ポイント:一文40から50文字に

前回も触れましたが、日本語は敬意や丁寧さを大切にする言語です。このことは決して間違ったことではなく、私たちは今後も大切にしていかなければいけないことと思います。ただ、その結果、文が冗長的で婉曲になり、長くなりがちです。

日本の翻訳業界では、「日本語に正確に翻訳をする」ことが常とされています。このため、冗長的で婉曲な日本語の文は、基本的にそのまま長い外国語の文に翻訳され、プレイン・イングリッシュの10のポイントの一つである「長文より短文」に反する結果となってしまいます。世界的な言語のプレイン化の流れの中で、“日本語良ければよし、英語にさえなっていればよし”という時代は終わろうとしており、日本語の良さは残しつつ翻訳後の文章のプレインさを考慮しなければならない時代に突入しています。

では、どの程度の文字数を目標としたらよいのでしょうか。結論から言えば、普通にひらがな、カタカナ、漢字を使って書いていただいたとして、一文40文字程度、多くても50文字以内が目安となります。大まかな計算ですが、日本語の文字数を2で割った数が英語の単語数になります。つまり、日本語で一文40から50文字であれば、翻訳後の英文はプレイン・イングリッシュにおいて適当な長さとされている一文20単語程度(次図参照)の文となります。

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出典『English News Writing: A Guide for Journalists who Use English as a Second Language』(Bryce Telfer McIntyre著)

上図の数字は時代ごとの一文の長さを表した数値です(1センテンスの平均単語数)。
時代を遡るほど、英語の一文が長かったことを表しています。そして、時代が下る中で、情報の量、情報の発信者の数、そして情報伝達の範囲、これらの拡大に反比例する形で、一文の長さは短くなりました。短文ほど内容がダイレクトに伝わる、という実感が積み重なる中で、自然淘汰的に文章の短文化が進んだものと推測されます。

長文といえば、行政の文書や法律が連想されますが、それは日本に限ったことではありません。イギリスでも同様に官公庁の文書は長文でした。それにメスを入れたのがサッチャー元首相で1979年に公正な行政サービスの実現に向けてプレイン・イングリッシュを導入し、3年間で4億2,000ポンドの削減と、130の行政手続きの合理化を実現しました。同年アメリカでも、カーター大統領によって文書業務削減法が施行され、行政業務の効率化が進められました。

長文主体の大量の日本文を、プレイン・ランゲージに翻訳するにはコストと時間がかかり、また多言語化の必要性を考えると、組織の担当者は頭を痛めるところです。短文化を含むプレイン・ジャパニーズの10のポイント(後述)はその解決の一助となります。

グローバル化とDXの時代が求めるプレイン・ジャパニーズ

現在は、コロナ禍で国をまたいだ人々の往来は制限されていますが、逆にオンライン上は活発な交流がされています。さらに5Gで高速通信化が進むことで、DX(Digital Transformation)も加速化することでしょう。DX時代では、人と人との距離は限りなく近く、外国人との間の国境の壁は限りなく低くなっています。しかし、コミュニケーションにおいては、文のわかりにくさや翻訳というハードルが残っています。

DXの本質は、コミュニケーションのデジタル化やリアルタイム化ではなく、情報量の増加やスピードアップによって人が恩恵を受けることです。もし、クリック一つで行われる注文や送金が、取引条件への理解不足や誤解を原因として、消費者に不利益をもたらすのであれば、まさに本末転倒です。ISOのプレイン・ランゲージの規格化は、グローバル化とDXの時代において、誤解のない明確なコミュニケーションにより消費者を不利益から守ることを目指しています。

海外では、消費者保護の観点からオンラインプラットフォーム規制、消費者契約保護法、個人情報保護法というような商取引の規制や法の整備が進められており、その多くに「プレイン・ランゲージにより誤解のない明確な説明責任を果たすこと」との一文が記されています。

日本でも、諸外国に追随する形で、消費者契約法の改正、職業安定法、保険、金融商品取引等の法律や規則に“平易な表現”を使用し、説明責任と明確な情報開示を果たすことが明記されています。この“平易な表現”で文章を書くためのポイントをまとめたものが、プレイン・ジャパニーズです。
オンライン上での商取引をふまえ、各国同様にプレイン・ジャパニーズもISOの国際基準ガイドラインにのっとることで、世界と足並みがそろいます。翻訳機やAIとも親和性が高まるので、IOTプラットフォーム上のDXの進展にも一役かうことでしょう。

プレイン・ジャパニーズの10のポイント

Japan Plain English & Language Consortium (以下JPELC)が、アメリカ政府およびSECが公開しているプレイン・イングリッシュのポイントを土台に、日本語の特性と日本語から外国語への翻訳を容易にするための留意点を加えたプレイン・ジャパニーズを編纂し公開しています。そこに記載されたガイドやヒントを整理したものが以下の10のポイントです。一目瞭然のポイントもありますし、いくつかのポイントの狙いは、前回の記事の中で紹介したプレイン・イングリッシュの対応するポイントと同じですので、ここでは解説はいたしませんが、ぜひ下記のリンクをご参照ください。

https://jpelc.org/plainjapanese/

【プレイン・ジャパニーズの10のポイント】

・ 目的と対象読者を明確にする(5W1H)
・ 結論を文書の先頭に置く
・ 文は短くする(約50文字まで)
・ 平易な言葉や表現を使う
・ 回りくどい表現を避ける
・ 能動態を使う
・ 肯定形を使う
・ 主語、動詞、目的語を明示し、それらの関係を明確にする(場合により言葉を補う)
・ 慣用句、カタカナ語、擬音擬態語を避ける
・ 読む気になる紙面構成(段落分け、見出し、箇条書き)

今の翻訳機の精度は、目覚ましい進化を遂げています。しかし、そのアウトプットの精度をさらに高めるためには、私たちの頭の切り替えが必要です。これまでの、冗長的、婉曲的なあいまいな日本語から、簡潔で明確なプレイン・ジャパニーズに切り替え、翻訳機にインプットするだけで、誤訳を回避でき、プレイン・ランゲージに近い翻訳文へのアウトプットが期待できます。それは、コスト削減だけにとどまらず、生産性の向上とともに、企業の発信力が高まります。

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プレイン・ジャパニーズは“やさしい日本語”と異なり、読みのルビをふったり、分かち書きや、情報をそぎ落とすことなく、日本語を母国語とする人でも違和感なく使用できるコミュニケーション法です。英語やドイツ語がEasy EnglishとPlain English、Easy GermanとPlain Germanというように、その用途と対象が使い分けられているように、日本でも“やさしい日本語”とプレイン・ジャパニーズを使い分けることで混乱が避けられ、滞ることなく普及につながることと思います。

行政に限らず、企業や団体、医療・福祉の従事者に至るまで、アカウンタビリティー(公平性、透明性、明確な説明責任)が統治と倫理、社会と環境に関連して求められるようになりました。地球規模の持続可能な社会の実現に、プレイン・ランゲージが欠くことのできないツールとなることを確信しています。

執筆者紹介:
浅井満知子氏

株式会社エイアンドピープル 代表取締役
青山学院大学経営学部卒業。同大学大学院 国際政治経済学研究科修士課程修了。
IT企業を経て、翻訳会社に入社。
1998年翻訳・通訳会社「エイアンドピープル」を設立。英文IRを強みとする。2000年に日本の大手自動車メーカーのインド進出に向けた、英文ドキュメントをプレイン・イングリッシュ仕様で作成する要請を受け、プレイン・イングリッシュの戦略的で効果的な英文コミュニケーションを研鑽する。
2010年から、日本IR協議会の支援のもと、上場企業の広報IR担当者向けのプレイン・イングリッシュのセミナーを毎年東京と大阪で開催。
2019年4月に、日本初のプレイン・イングリッシュの普及推進団体JPELC(ジャパン・プレイン・イングリッシュ・アンド・ランゲージ・コンソーシアム)を設立。2019年11月よりISO/TC37/WG11(Plain Language Project)ドラフト作成委員会委員。

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