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セミナー採録リポート Vol.2

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セミナー採録リポート Vol.2

ブランディングに向けた2つのアプローチ~企業視点と顧客視点~

 企業ブランディングのプランニングのお話をいただいたときに、私自身まず考えることは大きく2つあります。それは、クライアントである企業側の視点からスタートするブランディングなのか、それともお客様側の視点からスタートするものなのか。ここが大きな別れ道で、この点をまずクライアントさんとしっかり話し合って、今回狙うべきはどちらですか、ということを確認するようにしています。

 企業側からスタートする場合、必ず経なければいけないプロセスは、仕事の意義の確認だと思っています。どのような会社、どのような仕事でも、必ず意義があるはずで、企業の方と共に、それを探していく、そういう仕事を初めに行うようにしています。そうして再確認・再定義したことを、できるだけ的確な言葉にしていく、これがコピーライターに課せられた役割だと思っています。

 一方、お客様側から考えていくブランディングで重要な点は、“お客様と緩やかなコミュニティをつくっていく”ということです。これは今、多くの企業が目指していることで、お客様に商品・サービスをいかに伝えるか、ということより、緩やかなコミュニティをつくりたい、ずっと私たちとつながっていてほしい、という思いを伝える手段として、あらゆるSNS施策があると思います。この場合は、まず、お客様と共有できる「合い言葉」のようなものを1つつくりましょう、と提案します。その合い言葉のもとにお客様が集まることができる、そんな言葉がコピーとなり、より強く、より伝わるようなメッセージになればいいと思います。

企業発の視点で考えるブランディング事例 ~旭化成~

 企業側の視点で考えるブランディングの事例として、旭化成の企業広告シリーズを紹介させていただきます。以前にも同社では「イヒ!」という名キャンペーンがありました。社名に含まれる「化」の字を、カタカナの「イヒ」に見立てて、新しい発想や何か思いついたときの気持ちを「イヒ!」という言葉に託して、まじめな化学メーカーだけど、ちょっとやんちゃな感じとか、そういった企業の姿勢を表現するものでした。このキャンペーンも約10年間続き非常に成功しましたが、「イヒ!」という言葉は伝わりましたが、旭化成がどのような会社であるか、という点で焦点がややぼやけてきたこともあり、そのあたりを再確認したいということで、まさに企業の側から、会社や仕事の意義を再定義しましょう、というオリエンテーションをいただき取り組みました。
 仕事の再定義について受け持つときには、その仕事もしくはその企業のことを知りたいと思い、たくさん企業の方にお話を伺いますし、工場見学にも行くようにしています。その中で、「御社の仕事は多分こういうことですね」「皆さん、話し合われているのはこういう仕事ですよね」、というものを的確な言葉にできればいいなと思っています。
 旭化成でも工場を見せていただいて、何が一番面白かったかというと、生産ラインで「はい、これが完成です」と言っても、そこから出てくるのは車や家電などの完成品と違って、ドロドロした液体や極細の糸であったりするのです。完成と言われてもカタチがよくわからない、その感覚がとても面白く感じました。車や家電の新製品は、単に新しいモデルができるということですが、化学メーカーにとって新しいものをつくるということは、今まで世の中になかった本当に新しいものができてしまう、そこに、化学メーカーとしての仕事のやりがいや意義があるのではないでしょうか、その部分をしっかりとした新しい企業の言葉に持っていきましょう、というような話をしてきました。
 コピーは2つご提案しました。1つが「問題」で、もう1つが「昨日まで世界になかったものを。」というものです。昨日まで世界になかったもので世界中の問題を解決する会社にしませんか、そういう再定義をして、それをご提案したということです。これに沿って企業広告、コミュニケーションを約10年間続けてきています。

 私たちクリエーティブに携わる人間がコピーを世の中に出していくときに、世の中の空気を読み、世の中のことを考えながら、どういう形で昨日まで世界になかったものを言葉にすればいいか、という意識の中から言葉を考えていきます。
基本的に企業広告は自慢話でいいと思っていますが、その自慢は、20世紀には「世界最小・最軽量」とか、「売上ナンバーワン」とか、そういうことでよかったと思うのです。21世紀になって、本当に頼られる企業というのは、「世界最小・最軽量」などのスペックや前向きな未来を誇るというよりは、足元の現実を見て、本当に解決すべき問題が山積しているので、それを1つ1つ解決していく会社のほうが、今の時代、信頼されるのではないでしょうか、という話をして「問題」という言葉を提案しました。

 そこから続けてきたシリーズ広告のメッセージは本当にシンプルなものです。企業ブランドの再定義として、昨日まで世界になかったものであらゆる問題を解決する、と決めたならば、それを1つ1つ紹介していく。クリエーティブの世界には従来のアイデアや発想から飛躍して考えるという「クリエーティブ・ジャンプ」という言い方がありますが、私自身はあまりジャンプしたことはなくて、世界中の問題を解決してくれる技術があるなら、それを最もわかりやすく強く表現してくれる事実は何なのだろうか、と考えました。テーマが「水」であればの干上がった湖、「骨粗しょう症」であれば、ロシアの高齢だけど元気ですばらしいバレリーナ、というように設定した課題に対して、よりわかりやすく、より強く、より美しく、伝えるためのアイデアを少しずつ積み重ねていくことが求められている表現ではないかと思っています。
このように、企業側から始めるコーポレート・ブランディングでは、自分たちの会社や仕事をもう1回見つめ直す、もう1回再定義していく、そして、その再定義した内容を見つめ直しながらお伝えしていくということが、オーソドックスですけど大事だと思っています。

顧客視点からのブランディング・アプローチの事例から

1.JR九州「祝!九州」

 お客様からの視点でスタートするブランディングについてもご紹介します。1つ目が、JR九州の九州新幹線・全線開業時のキャンペーンで、僕自身が“お客様と緩やかにコミュニティをつくる”ことの意義を感じた最初の仕事です。
 コピー自体は「祝!九州」という、文字にすると3.5文字で、コピーライターとしてはいかがなものか、という感じはありますが、前述した「合い言葉」みたいなもので、とてもシンプルです。「祝!九州」であって、「祝!九州新幹線」ではないですよね、という話を最初にしました。祝うべきは、新幹線ではなくて、これで九州がまた盛り上がっていく、九州がいよいよ1つになっていく、それをみんなで祝う、そういうキャンペーンが大事ですよね、というような提案でした。
 キャンペーンの内容は、開業に合わせて特別な新幹線を走らせて、人々に集まっていただいて、まさに九州の人々が主役になる広告をつくっていこうということで考えたものでしたが、新幹線が通過するわずか20秒のために、ほんとうに人が来てくれるのか不安でした。最終的には多くの九州の皆さんに参加していただき、皆さんの郷土愛のもとに、コミュニティを緩やかにつくっていくことの大切さを学びました。このキャンペーンの経験から、お客様とのつながりを一過性で終わらせず、継続的な関係性を築いていくために、お客様と“緩やかなコミュニティをつくる”、そうしたブランディングが、多分、SNS時代の手法なのかなと思いました。

2.大塚製薬「ポカリスエット」

 もう1つの事例は、大塚製薬のポカリスエットです。企業ブランディングではないですが、コミュニティをつくるというブランディングでは、わかりやすいと思い、紹介させていただきます。
 ポカリスエットでは、クライアントが5年ほど前に行った調査で、非常にショックを受けたのが当時の中高生の商品に対する印象でした。我々世代は、まだ世の中にスポーツドリンクがなかったときに登場したポカリスエットに高いロイヤリティを持っています。しかし、多くの中高生たちにとっては、商品知名度は高いのですが、抱くイメージは「風邪のときにお母さんが買ってくる」というもので、これにショックを受けたわけです。若者の支持がなければ10年後の未来も無いわけですから、ここに非常に危機感を持たれた大塚製薬から、もう一度、中高生の真ん中にこのブランドを持っていきたい、という非常にターゲットを絞った明解なオリエンテーションをいただきました。

 私たちは、ポカリスエットというブランドの再構築という目的の中で、中高生を徹底的にリスペクトして応援する、その態度を貫いていくということが、中高生と緩やかなコミュニティをつくっていくきっかけになれるのではないかというような提案をしました。
 中高生の中でポカリスエットの存在感をもう一度大きくするためには、「新しいプロミス」が必要と考えています。「発汗により失われた水分・電解質を素早く吸収できる」「身体のコンディションを戻してくれる」などの商品特性は、みんな大体知っています。その先の中高生向けのプロミスが必要だと思い、考えたのが「人間の潜在能力・可能性を引き出すポカリスエット」というものです。新しいブランディングとは、イメージの問題だけでなく、新しいプロミスをつくり、提示していくことだとも考えています。
この新しいプロミスのもとコピーを2つ提案しました。1つは「潜在能力をひき出せ。」です。これは商品の再定義に近いですが、失われた水分を取り戻すだけではなく、その上で、取り戻した君たちには何ができるか、多分、潜在能力が出るのではないですか、という新しい商品の定義をしました。もう1つは、中高生との合い言葉になる言葉として「自分は、きっと想像以上だ。」というものです。
 
 2年目以降は、潜在能力を引き出す装置として「ダンス」というモチーフを用いてキャンペーンを展開しています。ダンスは不思議なもので、ちょっと練習するとうまくなるのです。そして、踊る自分がここにいる、というその喜びが、とてもうれしくて、そこがわかりやすいな、と思っていました。
 ダンスをモチーフにすると、中高生が真似してくれるというのは、ある程度想定できていたので、「ダンスを提供する」「ダンスをまねしてもらう」、その循環が上手くできるといいなと思いました。ただ、“潜在能力をひき出す”という以上は、踊りについては、海外から振付師を呼び、あえてとても難しく、真似するのも大変なものにしました。踊るために潜在能力を出さなければだめだよ、くらいのものを用意しました。
 その結果、中高生の間で、やってみたいという気持ちが広がり、どんどんまねしてくれて、踊っている様子がSNSを通じて広がっていきました。中高生を徹底的にサポートするため、詳細なレッスンビデオをつくり、SNSに上げました。さらに彼らのダンスの投稿を募り、その動画で私たちにコマーシャルをつくらせてください、皆さんが送ってくれたもので、みんなが見ているミュージックステーションでオンエアしますよ、というように、展開していきました。ダンスを通じて中高生たちをリスペクトし、励まし、称賛することが、彼らを認めることにつながり、ひいては“緩やかなコミュニティ”が生まれてくるといいな、というようなことをずっと続けています。2018年には、「踊りたい人、みんな来て」ということで約6,000人の中高生が自発的に集まりダンスを踊るフェスをやりました。まさにみんなでイベントをやって、みんなでコマーシャルをつくるみたいなことを行いました。

最後に

 今日は企業ブランディングのクリエーティブの現場からということで、私自身がブランディングの仕事で、どのようなことを考えて、どのようなプロセスを経ているかという話をさせていただきました。
 1つは、クライアントさんと一緒に、企業側の視点で、会社や仕事の意義というものを再確認していく作業では、会議でみんなで話をしている話し言葉を「書き言葉・読み言葉」にしっかりと変えていくだけでも、そのプロセスの中でも自分たちの会社や仕事の再発見があり、大切なものが見えてくることがあるな、ということを実感しています。それが自分たちの会社・仕事をきっちりと再定義できる、ということにつながると思います。
 もう1つは、これから先に進んでいく方向性をきちんと指し示すことができるかどうか。このあたりを丹念に話し、きっちりと言葉にまとめていくことは、何らかの意味があると思います。どの会社でも、創業からこれまでに築いてきた社会的な意義が薄れてきたり、見えにくくなってくるときがあります。それを何年かのスパンで見直すというのは、コーポレート・ブランディングの基本として大事なことだと思います。

 もう1つ、お客様側のブランディングという意味では、一番大事なのは、お客様に伝える、売る、わかっていただくというよりも、“緩やかなコミュニティをつくる”というのが1つの成功のパターンだろうなと思っています。そのとき大事なのは、自分たちはお客様を信じている、理解している、称賛する、一番リスペクトしている、その態度、その考え方がとても大事かなというように思います。
 広告の世界でも、基本的なセオリーは「差別化」でした。ユニークなセールスポイントを見つけ、自分たちだけの特徴を捉えて、それを広告するというのは、今でもセオリーとして正しいのですけれども、 最近は“他と違う”ことだけを言ってもしかたがないとも思っています。差別化だけにこだわりすぎると、いつの間にか、スポーツカーの広告が「ゴルフバック3つ入ります」という話になってしまったりする。そういうことではなくて、ほんとうにお客様が求めているものに向かって真っすぐ、お客様を信じていったほうが、より新しいものになるのではないかということも最近は思っています。

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