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Withコロナ禍においてのSDGs/ESGへの実践とブランド化の可能性3

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Withコロナ禍においてのSDGs/ESGへの実践とブランド化の可能性3

SDGsの本質、1つ目は「バックキャスティング」、2つ目は「マルチステークホルダー」についての解説をした。そして、3つ目は「自分ごとによる行動」だ。

増える社会起業家

ソーシャルビジネスに挑戦する起業家のことを「社会起業家」と呼ぶ。筆者の周辺では社会起業家を目指す人が若手を中心に増えていると感じている。この社会起業家に共通しているように見えるのは、過去に社会が抱える課題を目の当たりにした「原体験」があることだ。そこで感じた課題を何とかビジネスで解決できないかと強い想いを抱くようになり、起業へと突き動かす。まさに社会課題を見て見ぬふりをできない人による「自分ごとによる行動」だ。
日経ソーシャルビジネスコンテスト(日本経済新聞社主催)では毎年約300~400件の応募が集まる。その中の多くの応募者は、アイデアを持つだけではなく実際に起業を準備、あるいはすでに起業している人だ。最近ではビジネスモデルも、「良いことはするが汗をかくだけで儲からない」といったものから、「ITを活用したモデル」へ移行しつつある。ここでは過去に表彰された企業を例に挙げてみる。

ミャンマーでソーシャルビジネスを展開するリンクルージョンの黒柳英哲代表は、学生時代からバックパッカーでシリアなどを旅し、「世界には生まれながらにして人生の選択肢が狭められている人がいる現実を目にしていた」という。現在はミャンマーで、マイクロファイナンス関連事業を展開。クラウドサービス「JBRAIN」を提供している。個人事業主や零細事業者に向けて、勘定系に加え、顧客情報、業務管理、会計管理など金融サービスに必要な機能をクラウドで提供、金融機関は融資規模に応じた月額利用料で使用することができる。ミャンマーの小口金融市場は、2011年の開放から年率50%前後で急成長を続けている一方で、大半が紙帳簿での非効率な業務を続けている。また、単に融資をするだけでなく役に立つ情報を提供したり、商品や必要資材の仕入れを支援するコマース事業を提供し、顧客にとっての障害を取り除くことで零細事業者の成長を支援している。
おてつたびの永岡里菜さんは、人手不足に悩む地域と、知らない土地での体験を求める若者を結び付けるサービスを手掛ける。人手不足で困っている旅館や民宿の業務を数日間手伝う代わりに、その報酬として現地への往復の交通費を支給する。利用者は無料で地域を訪問し、お手伝いの合間に観光ができ、旅館や民宿は繁忙期の人手不足や困りごとを解消できるというマッチングを実現した。お手伝いを通じて、その土地の魅力を知ってもらう仕組みである。若者にとっては、その土地に知り合いができ、愛着も湧いてくる。そんな旅のスタイルを提案する。手伝う内容はプロジェクトの企画からPR活動、事務・清掃作業など幅広い。
永岡さんは三重県尾鷲市に祖父母の実家があった。「私は、子どもの頃は学校の長期休みをほとんど尾鷲で過ごしました。私にとって尾鷲は魅力的な場所。誰かに話したくなる特別な地域です。でも、残念ながら旅行先としては選ばれにくいですし、東京で尾鷲を知っている人もまずいません。その理由を考えるうちに、交通費が障壁の1つになっていることに気付いたんです。金銭的な理由で地域に行きたいのに躊躇する若者が大勢います。だから私は『おてつたび』を通じてその足かせを払拭し、若者が地域に行けるきっかけをつくりたかったんです」と語る。

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ミャンマーにおけるリンクルージョンの事業風景(リンクルージョン提供)

ビジネスとしてのソーシャルビジネスの特徴

このようにソーシャルビジネスは、あるリーダーの強い想いから始まることが多い。その人の原体験や感じたことに対し、その課題を何とかビジネスで解決できないかと行動することからはじまる。良きフォロワーや協力者を社内外につくり、その後にようやくビジネスモデルの目途をつけて、マネタイズやコンプライアンスの条件をクリアできるようになる。ソーシャルビジネスはマーケットがニッチであるため、一見儲からないと思われて大手がなかなか進出しない。すなわち、他社が進出しないブルーオーシャンのマーケットだ。誰でも目をつけるマーケットは参入するプレーヤーが多く、レッドオーシャンであることが多い。
たとえば高齢化に起因する社会課題のマーケットは、一見小さく儲からないように見えるが、その課題は時代が進むほど大きくなっていく。そして、社会貢献性の高いビジネスは、優秀な若者を引き付ける。その社会の役にたっているという実感は、社員のやりがいや働きがいを高める。地域や顧客から感謝されることで好循環が生まれる。これはスタートアップだけではなく、大企業の新規事業及び人材育成でも活用できる分野だ。
この手のビジネスは自社だけではできない。他の会社、行政、NPOや市民団体など多くのステークホルダーと一緒になって共通の利益を追求していく。企業のお金儲けだけのモデルではなく、価値を共創していくモデルなのだ。そして、それを可能にする人材を育成することや、価値観を組織で育成することが大切なのである。自分ごととしての行動を起こすことができる人材が多い組織は強くなる。是非そのような人材を増やして、良い組織を目指したい。


横田アソシエイツ代表取締役

慶應義塾大学大学院特任教授

横田 浩一(よこた・こういち)氏

日本経済新聞社を経て2011年横田アソシエイツを設立。15年より慶應義塾大学大学院特任教授。釜石市アドバイザー。セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に『SDGsの本質』『明日はビジョンで拓かれる』『愛される会社のつくり方』『ソーシャル・インパクト』等

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